あいうえおのチラシの裏

愛にうえた男の悲しい物語

シーソーゲーム 2

 年を重ねてくると、そりゃ人並みに恋したり失恋したりする。恋をしていた当時は楽しかったり苦しかったりするけど、後でその時期を振り返ってみると、『ああ、なんだかんだあったけど、良かったのかなあ』とか思うことが多い。思い出のなかで、僕が好きだった子はあの時の姿のまま微笑んでいる。

 

 けれど、穴あきチーズのように断片的な記憶のなか、彼女が本当にそんな顔をしていたかいまいち自信が持てない。僕の脳みそは我ながら信用が置けなくて、彼女は思い出のなかで美化されている。そういえば、ミスチルはこうも歌っていた。『人は悲しいくらい忘れていく生き物』と。

 

◇◇◇

 

 完全に終わった。

 

 まさか友達と一緒に来るとは全く考えていなかったので、僕は呆気にとられた。一対一で必死に口説いてなんとか即れるレベルなのに、いきなり複数相手なんて無理にもほどがある。こちとら初期装備しか持ってないのに、いきなりラストダンジョンに放り出された感じだった。しかし、わざわざ高い電車賃を払ってきたし、途中離脱することも出来ない。心の中で大きくため息をついてから、仕方ないと僕は腹を括った。

  それから、三人で名古屋駅付近をぶらぶらとショッピングした。当然ギラつきもへったくれもなく、僕はただ女の子達にひっついているコバンザメだった。結局、色気のあるイベントなんて何もない。そのまま夜になり、夕飯にみんなでひつまぶしを食べた。

 

女の子「こないだ白いふわふわの服着てたらさ。『どうしたの今日、天使の羽根落として来ちゃったの?』ってナンパして来る男がいて、笑ったー。速攻で『あ、結構です』って言ったけど笑」

友達子「いるよねー、そういうの笑」

俺「あはは(俺も同じようなこと言ってる。。。)」

 

 そんな会話をした記憶がある(このネタたまに使うので名も無きスト師さんありがとう)。 そして、夕飯を食べ終わったら、友達の方は「彼氏と遊ぶから、それじゃ」と言って帰っていった。

 

……え、帰るの?

 

  展開がよくわからなかった。『これはこの後、二人きりなるからギラついて良いってことなのか? でも、友達と一緒に来てるってことは、完全に食いつきはないよな? 多少なりとも食いつきがあれば、絶対一人で会いにくるもんな? 今まで一緒にいたなかで少しでも俺に好意がある素振りあったか? いや、ないだろ?』僕は思考がぐるぐる回り続けて、すっかりネガティブになっていた。もう、さっさとこの子を切って名古屋でストしてみようか。うん、それもいいかもしれない。

 

女の子「これからどうするの?」

俺「あー、まだ新幹線はあるけど、せっかくだし、名古屋をふらふら観光するよ。んで、満喫に泊まるかして帰ろっかな」

女の子「えー、せっかくだし、なんかして遊ぼうよ」

 

  やっぱり僕のことをどう思っているのか、本当によくわからなかった。僕が別行動すると言えば、彼女はもうそのまま帰るものだと思っていた。 当時は、そこからホテルに誘う勇気もチャラさもなかったので、普通に居酒屋に行った。家族の話や子どもの頃の話、そして恋愛の話なんかを延々と話した。相変わらず全く食いつきは感じられなかったけど、少しずつ少しずつ距離は縮まっている気がした。

 それから場所を変えてカラオケに行った。カラオケでようやくキスをしたが、それ以上は無理だった。場所グダかと思ってホテル打診してもダメだった。 結局、新幹線の始発の時間までカラオケで喋っていた。そして、目が焼けるような朝日を浴びながら彼女は駅まで送ってくれた。

俺「じゃあ、今度関東にまた来ることあったら遊ぼう」

女の子「うん、わかった!」

そう言って僕は名古屋を後にした。

  

  

 そのあと、女の子が泊まりで地元に来てくれたので車を出して一緒に遊んだ。長く付き合ってた彼女と別れてから、久々にまともに女の子とデートした。月並みな表現だけど、すごく楽しかった。ドライブ、ディズニー、日帰り温泉、夜景。色々な場所を案内する度に、どれもすごく喜んでくれた。もちろんセックスもした。名古屋の時は散々拒絶されたのに、地元に来てくれた時は何故かノーグダだった。理由はよくわからないし、聞いても答えてくれなかった。二日間まるまる二人で一緒に遊んでから、彼女を夜行バスの発着場まで送っていった。帰る途中、彼女からメールが来た。

『色々ありがとう!すごい楽しかったよ!また遊ぼうね!』 

 

 それから1ヶ月後。また、彼女に会いに名古屋に行った。一緒にご飯を食べた後、ギラついてキスをしようとしたがかわされてしまった。 僕は混乱した。 『遠距離だけど、彼女化してもいいかな』とか軽く考えていた僕がバカだった。彼女のなかでは何かが既に過ぎ去ってしまっていて、僕はもうそれを掴むことができなくなっていた。キセクに放流されるなんて、今となっては数えられないくらいあることだけど、初めてのことだったので僕は戸惑った。彼女があのかわいらしい笑顔を僕に向けることはなくなって、興味のなさそうな余所行きの笑顔が貼り付いていた。ああ、すっかり終わってしまったのだ。帰りの新幹線のなかで、僕は窓の外に流れる夜の街並みをぼんやり眺めていた。

 

 

 残念なことに、ドラマティックなオチは特に用意されていない。最終的には自然消滅的に連絡を取ることも減って、何もなかったことになった。

 何故僕と遊んでくれたのか、セックスしてくれたのか。当時聞いてもはぐらかされて教えてくれなかったし、今となっては聞くすべがない。もうずいぶんと昔のことになってしまったけど、これが僕のストで出会って初めて恋した話。

 そう、彼女が地元に遊びに来てくれた時のことを、僕はいまでも時おり思い出すことがある。冬の寒い日で彼女は赤い手袋をしていた。僕を見つけると笑顔で手を振って駆け寄ってくる君。赤い手袋がゆらゆらと揺れる時、僕は既に君に恋に落ちていたんだった。

 

 

『生まれたての僕らの前にはただ果てしない未来があって それを信じてれば 何も恐れずにいられた』 BGM "未来" by Mr.Children