あいうえおのチラシの裏

愛にうえた男の悲しい物語

ノーペインノーゲイン

 子どもの頃にマクドナルドのハッピーセットでもらったオモチャがあった。なんてことはないただのプラスチックのオモチャだったけど、変形して飛行機やロボットになる結構イカしたやつだった。その当時、僕はそのオモチャで夢中になって遊んでいた。オモチャで戦いごっこをしながら、色々なストーリーを作っていった。それから、僕は大人になって普通のサラリーマンになった。悲しいことに今の僕にとって、プラスチックのオモチャは大した価値もないガラクタだ。忙しい現実が迫ってくるサラリーマンにとっては、オモチャなんて何の役にも立たなくなってしまった。

 

 僕が大切にしていたものは一体なんだったんだろう? ふと、そう思うことがある。価値観というものは割と曖昧なもので、時間の経過とともに大切なものの順序は頻繁に入れ替わる。大切なものってなんだろうか? とても難しい。

 

 自分ですらそう思うんだから、他の誰かにとっての大切なものなんて、よくわからないに決まっている。僕にとって大切なものが、他の誰かにとっては取るに足らないつまらないものだってことはそりゃ腐るほどあるだろう。

「自分がどうしてもゲットできなかった女は、他人が簡単に即った女である」そんなツイートをみたことがある。価値観という観点で覗いてみれば、簡単に即れた男にとってその女の子に大した価値なんてないけど、どう頑張っても即れなかった男にとって逃した女の子は物凄く価値があったように錯覚する。すっぱいブドウならぬ甘いブドウは鳶がかっさらってしまって、もうどこにもない。

 

 僕自身も何度もアポで完敗したことがあるし、その悔しさは今でも思い出すことはある。負けた後に「めちゃくちゃ悔しいいいい」と家でのたうちまわるなんてざらにあった。でも、一通り反省してから別の次の女に「来週飲み行こ?笑」とLINEを打つのである。笑、なんて付けてるけど、全く面白さなんて感じてない。なんて健全で不健全なこの界隈。

 なんだか、文章があちらこちらに飛んでまとまらない。まあ、言いたいことは価値観なんてものはひどく曖昧模糊としていて、信用がおけないということだ。時代や年代や文化やコミュニティや人によって全然異なってくる。僕を例に挙げたように同じ人間ですらそうなのだ。大切だと思っていたものが、ある日急にガラクタになってしまうことなんてザラだ。

 

 僕が大切にしたいと思っていたものは、いったいなんだったんだろう?

 

 

 さて、ある女の子との話を書くのが、目的だったはすだけど、前段が長すぎて申し訳ない。

 

 彼女は都内でストしている時に出会った。綺麗な足をしている子で、女の子にしてはかなり身長が高くてスタイルが良い子だった。声掛けした日に連れ出して、最終的にホテルまで行ったのだが、どうしてもグダが崩せなかった。あの手この手でグダを崩して服まで脱がせたが、結局挿入まではできなかった。よくよく聞いてみると処女グダだった。おいおい、マジかよ。かなり露出している感じの服装だったし、遊んでそうな外見だったので、意外ではあった。

 その日はどうしてもグダが崩せずに放流したけれど、デートと称してまた会う約束をした。挿入まではグダは多かった一方、何故か食いつきはあって、その後にも何度か色々遊んだりした。結局3回目くらいのデートで準々即した。

 

 僕らはよく車で夜の街をドライブデートをした。

「どうして付き合ってくれないの?」助手席に座る彼女は窓の方を向きながら、少し怒ったような口調で言っていた。

「いやー、俺の入ってる宗教さ。結婚する前に付き合うの禁止されているんだよね。だから付き合うとかそういうのダメなんだー」

「なにそれ」

 ほんとつまらない、そう言って彼女は笑っていたことを覚えている。

 彼女は僕がしてあげたことに、心から喜んでくれた。そして、大した取り柄もない僕のことを何度もすごいと言ってくれた。あまりに僕のことを褒めてくれるので、何か物凄い見返りを求めているんじゃないかと、逆に疑り深くなるくらいだった。

 

 ある日、僕の家に彼女が来た時があった。彼女とはしばらく会えていなくて、会うのは一ヶ月ぶりくらいだった。その頃には、気も合うし本命彼女にしても良いかなあくらいには考えていた。

 二人で映画を見ながらイチャイチャしていたら、彼女が口を開く。

「そういえば、経験人数何人?」

「いや、そんなの数えてないなあ。7人くらいじゃない?」(テンプレトーク)

「どうして経験人数覚えてないの? 私、ちゃんと13人って覚えてるのに」

 

え。

 

 お前こないだまで処女だったよな? 僕は頭があまり上手く回らなくなった。

「なんでそんなに人数増えてるんだよ?」動揺を隠しながら僕は聞く。

「街歩いてて声かけられた人についてったら、そんな感じになって」

「ふーん」……なんだよそれ。

「そしたら、経験人数増えたんだ笑 ここ最近エッチしすぎて疲れたんだよね。一週間毎日エッチしてたから」

 

 頭の奥がキーンと鳴って、急激に体温が冷めていく自分がいた。

 

 

「自分がどうしてもゲットできなかった女は、他人が簡単に即った女である」

 これは、今までの僕に対するしっぺ返しなのかもしれないと思った。今まで女の子をぞんざいに扱ってきた業(ごう)なのだ。僕が過去に簡単に即ってきた女の子は、誰か別の男からすれば、大切な誰かだったのかもしれない。

 どこかスト師が簡単に即ったこの子だって、他の誰かにとっては大切な女の子なんだ。そう、他ならぬ僕にとっては「大切な女の子」だったんだ。

 

 その後も、僕は彼女と映画の感想なんかを話していたが動揺を隠すのに必死で、上手く口がまわらなかった。「他人の即系」になった女の子をどうして俺が大切に扱ってやらないといけないのか。ずいぶん身勝手な考え方だと思うけれど、そういう考えが頭をよぎってしまった。ショックを受けるとともに、彼女に対して急に興味をなくしていった。

 

 

 その後、彼女は男遊びを本格的に覚えたのか僕は見向きもされなくなった。しばらく経ってから連絡先をチェックしたら、既にブロックされていた。彼女と話をするのは結構楽しかったので、セックスなしのただの友達でも良いんだけれど。もうどうやっても彼女と会うことができないのは、やっぱり少し悲しい。

 さよならなんて、ちゃんと言えるだけマシだと思う。彼女のことを思い出すと、心の奥の方にトゲが刺さったような痛みを覚える。

 

 『もっと違う設定で もっと違う関係で出会える世界線 選べたらよかった』

 少し前に流行った曲を聞くと、誰に話す訳でもないのに独り言が出てしまう。「ほんとその通りだよなぁ」と。